大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(く)60号 決定

少年 O・T子(昭二〇・一二・二三生)

主文

原決定を取り消す。

本件を長野家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告理由の要旨は原決定の処分が著しく不当であるというにある。よつて、本件少年保護事件記録並びに少年調査記録によると、少年は二歳の頃両親の離婚により実父O・Nより尼寺○○庵○田○教方に将来尼僧となる約の下に引き取られ以来中学校三年の昭和三五年一二月頃まで同女に養育されてきたところ、その頃少年が宗家に入り尼僧になることを拒んだため、同女方より出されて右実父の許に戻り同人方より中学校に通い翌年三月同校を卒業したものであるが、少年はかく幼時より両親の許を離れ尼僧に養育されて尼寺生活をおくつた関係もあつて社会性が充分成熟しておらず、また尼僧になることを嫌い小学校時代よりこれに劣等感を懐き、同女に対し小児的な強い愛着感を持つと共にその身分に対し嫌悪の情をも持ち複雑な二面感情を有するに至つたものである。而して、本件虞犯行為は少年が前述の如く社会性が成熟しておらず且つ右二面感情を有していたので、中学校卒業後就職してもたやすくその職場に適応できないで長続きせず、右○田に対する愛着感より同女の許に至るが、忽ちにしてその身分に対する憎悪の情が生じ同女に対して反抗的に振る舞う態度に出で、かかる生活を繰り返し果ては生活費小遣費にもこと欠きこれを強要するに至つたため、同女の少年に対する愛情がうすれた結果自己の依存する対象を失い不安感が高まつてきた折自己を受け入れてくれる男性にあい同人に安易に依存するようになつてなされた不純異性交友と、阻害された小児的な愛着の反動としての攻撃的行動とがその主なるものであるから、少年の右依存と愛着とを合理的に受け入れることができれば、その性格も容易に矯正し得るものと認められるのであつて、本件行為は情状重いものとはいい難く、その非行性はさほど強いものとは思われない。しかも当審における事実取調の結果によれば、少年は現在過去の非行について深く反省悔悟し、従来の生活態度をあらため今後は信頼できる者の許にあつてその指導監督を受けながら働き更生を期する旨誓つているのであり、これ等の情状に少年が未だ試験観察の処分に付せられたことは勿論、保護観察の処分に付せられたこともない事実を合せ考えれば、少年を従前の環境より遮断して相当期間適正な矯正教育を施す要があるものとは認められず、家庭裁判所調査官の意見及び少年鑑別所の鑑別結果をも参酌すれば、少年に対してはむしろ、少年法第二五条第一項により試験観察処分をなし、なお少年の家庭環境においてこれを監護する能力に欠けるところのある本件においては、右処分に合せて同条第二項第三号の措置をもとり暫く少年を観察せしめた上で同法第二四条第一項所定の第一号或は第二号の保護処分をするのが本件に対する適切な措置ではないかとも考えられるのである。結局原審の決定は著しく不当であると認めるから、本件抗告は理由がある。

よつて、少年法第三三条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 久永正勝 判事 荒川省三 判事 小俣義夫)

参考二

申立書

本籍 長野県長野市大字○○×××番地

住所 長野県長野市□□□三の××番地

氏名 O・T子

生年月日 昭和二〇年一二月二三日

本文

右私に対する虞犯保護事件について昭和三九年四月二一日中等少年院送致の決定を受けましたが当該処分を不当と思いますから抗告の申立を致します。

昭和三九年四月二八日

東京都北多摩郡狛江町小足立一〇五七

愛光女子学園内

O・T子〈印〉

右本人之指印に相違ないことを証明する。

愛光女子学園法務教官 百枝繁久〈印〉

東京高等裁判所御中

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例